2024.10.10

カスタマーハラスメント完全対策ガイド  ~あなたの職場を守る、現場で使える実践的アドバイス~

近年、カスタマーハラスメント(カスハラ)防止に向けた取り組みが全国で進んでいます。
2024年10月4日には、東京都で全国初となる「カスハラ防止条例」が成立し、2025年4月1日から施行される予定です。
この条例では、カスハラを「客から就業者に対して、その業務に関連して行われる著しい迷惑行為で、就業環境を害するもの」と定義し、職場環境の改善を目指しています。

また、企業の中でも積極的な対策が進んでおり、例えば株式会社ローソンでは、2024年8月に「ローソングループ カスタマーハラスメントに対する基本方針」を策定。従業員とお客様の双方が安全で安心できる環境整備に向けた取り組みを強化しています。

 

ここでは読みやすいストーリー形式でカスタマーハラスメントの実例とその対策を紹介いたします。

 

プロローグ:ある日の出来事から

とあるアパレルショップ。平日の午後、客足がまばらな店内に、突然の大きな声が響き渡りました。

「こんな商品、絶対に買うんじゃなかった!」

30代とおぼしき男性客が、新人店員の前で声を荒らげています。手にしているのは、1週間前に購入したというシャツ。確かにボタンが1つ取れかけていますが…。

新人店員の青山さん(仮名・23歳)は、心臓が飛び出るほどの緊張を感じながらも、懸命に対応を続けます。しかし客の声は次第に大きくなり、いつしか店内の他のお客様も不安そうな表情を浮かべ始めました。

このような光景は、もはや珍しいものではありません。むしろ、接客業に携わる方々にとっては、「ありふれた日常」となってしまっているかもしれません。

1. 知っておきたい!カスハラの実態

なぜ、今カスハラが問題になっているのか

「お客様は神様です」

かつて、日本のサービス業を象徴するこのフレーズは、今や大きな曲がり角に来ています。ネットで軽く検索すると、多くのカスハラに関する意見があることがわかります。その中には、つぎのような切実な声がありました。

> 「毎日必ず、クレームを付けにくるお客様がいます。『この程度も対応できないのか』と言われ、どう対応していいかわかりません」(コンビニエンスストア店員)

> 「SNSに『このスタッフの接客が最低』と実名で投稿されました。事実と異なる内容なのに、どうすることもできず…」(カフェスタッフ)

専門家として、この問題が急増している背景には、SNSの普及や、コロナ禍でのストレス社会の深刻化があると考えています。そして何より、「お客様は神様」という言葉の誤った解釈が、状況をより複雑にしているのです。

カスハラの種類:あなたの周りにもありませんか?

日本労働組合総連合会の2022年の調査によれば、カスハラは主に5つのタイプに分類されます。実際にあった事例とともにご紹介します。

1. 暴言型(55.3%) 

   『このバカ!』『使えない!』などの暴言を浴びせられるケース。あるファミレスでは、注文の品の提供が少し遅れただけで、新人スタッフが長時間怒鳴られ続けました。

2. 権威的態度型(46.7%) 

   「私のような常連に、こんな対応とは何事だ!」と、威圧的な態度や長時間の説教を受けるケース。まるで説教をするように、店員を見下すような態度を取られることも。

3. 執拗要求型(32.4%) 

   返品を断られた客が、長時間にわたって店員を拘束。「上司を呼べ」「本社の電話番号を教えろ」と、同じ要求を何度も繰り返すケース。

4. 威嚇・脅迫型(31.9%) 

   「SNSで拡散するぞ」「本社に言いつけてやる」。一見、穏やかな口調でも、その実、脅しをかけてくるお客様も。従業員を精神的に追い詰めます。

5. 不当苦情投稿型(23.9%) 

   事実と異なる内容の苦情を、勤務先に投稿されるケース。ある店員さんは、実名と顔写真をSNSに投稿され、誹謗中傷の的に。結局、転職を余儀なくされました。

業界別の特徴:うちの業界は大丈夫?

カスハラの発生率や特徴は、業界によって大きく異なります。

例えば、小売業では、「返品・交換」に関するトラブルが特に多いのが特徴です。ある家電量販店では、何年も前に購入した製品の返品を要求され、断ると「店の前でビラ配りをする」と脅されたそうです。

飲食業では、料理の味や提供時間に関するクレームが中心。「料理が冷めている」という苦情に丁寧に対応したにもかかわらず、SNSに「最低な店」と投稿されるケースも。

意外かもしれませんが、医療・福祉分野でも多くのカスハラが報告されています。特に問題なのが、待ち時間に関するクレーム。「予約したのに待たされた」と、受付スタッフに詰め寄るケースが後を絶ちません。

2. 法的にどうなの?~弁護士が解説する対応のポイント~

具体的にどう対応すべき?~現場で使えるアドバイス~

では、実際にカスハラに遭遇したとき、どう対応すべきでしょうか。以下が、弁護士の観点からのアドバイスとなります。

 1. 一人で抱え込まない! 

まず大切なのが、「一人で抱え込まないこと」。カスハラに遭遇したら、すぐに上司や同僚に報告しましょう。防犯カメラがあれば、その映像も保存してください。

独断での曖昧な回答は決してせず、その場で判断できないものはそのことを明確に伝え、上司に判断を仰ぐようにして下さい。

 

 2. 記録を取る 

「このくらいなら…」と思っても、必ずメモを取りましょう。日時、場所、相手の特徴、言動の内容…。スマートフォンのメモ機能を使うのもOKです。

 

 3. 毅然とした態度で 

丁寧な対応は必要ですが、理不尽な要求には「それはできかねます」とはっきり伝えましょう。弱々しい態度は、かえってカスハラを助長する可能性があります。

 

4.状況によっては110番通報を。

店側が、何度も退去要請や客側からの要求の拒絶をしたにもかかわらず、膠着状態となってしまった場合、ためらわず110番通報するようになさって下さい。

 

こんなとき、どうする?~Q&A形式で解説~

Q1: お客様がスマホで撮影を始めました。どうすればいいですか? 

A1: まず、撮影されていることを意識しすぎないようにしましょう。その上で、 

「申し訳ございませんが、店内での撮影はご遠慮いただいております」 

と伝えます。それでも続ける場合は、上司に報告を。

Q2: SNSで誹謗中傷されました。訴えることはできますか? 

A2: 可能です。名誉毀損や業務妨害として、損害賠償を請求できる場合があります。ただし、証拠の保全が重要。画面のスクリーンショットを必ず保存しておきましょう。

最後に:明日からできること

カスハラ対策、難しく考える必要はありません。

  • まずは、「理不尽な要求は断っていい」という意識を持つこと
  • 困ったら、必ず誰かに相談すること
  • 日頃から、職場での連携を大切にすること

これだけでも、大きな一歩となります。

そして、心強い味方がいることも忘れないでください。

弁護士、警察、労働組合…。様々な専門家が、皆さんを支援する準備を整えています。

どうか一人で悩まないでください。必要な時は、専門家に相談することをお勧めします。皆さんの職場が、従業員にとっても、お客様にとっても、居心地の良い場所となりますように。