2024.11.07

振替休日と代休:法的根拠と実務運用のポイント

振替休日と代休は、従業員が休日に労働した際、その代わりに休暇をどのように与えるかを決める重要な制度です。これらを正しく理解し、適切に運用することで、法令遵守と従業員の労働条件の改善を両立することができます。ここでは、振替休日と代休の詳細、法的根拠、そして実務上のポイントについて説明します。

 1. 振替休日とは

振替休日は、休日に労働する予定がある場合、事前にその休日を他の労働日と入れ替えることで、結果的に休日労働を避ける制度です。これにより、法定の労働時間内で労働時間を調整することが可能です。

 

【振替休日の具体例】

例えば、ある企業が日曜日を休日と定めている場合、その日曜日に業務が必要となったとします。事前に次の月曜日を振替休日として設定し、日曜日に働いてもらうことができます。この場合、日曜日は通常の勤務日として扱われるため、法定休日労働にはならず、休日労働に対する割増賃金(1.35倍)の支払いは不要です。

 

振替休日の法的根拠と運用ルール

  • 法的根拠
    振替休日については、労働基準法に明確な規定はありません。しかし、労働基準法の趣旨や行政解釈に基づいて運用されています。
  • 事前通知
    振替休日は、休日労働の前に従業員に通知しなければなりません。これにより、従業員が事前に予定を立てられるよう配慮します。
  • 法定労働時間の遵守
    振替休日を設定する際には、週40時間の法定労働時間を超えないように注意する必要があります。もし、週40時間を超える場合は、時間外労働として割増賃金(1.25倍)の支払いが必要となり、36協定が締結されていなければなりません。
  • 週休性の原則の遵守
    振替休日を設定する際にも、週1回の休日が必要です。(変形休日性の場合は4週を通じて4日以上の休日)。休日の振替後に1週間すべてが労働日とならないように注意が必要です。そこで、週をまたいで振替休日を設定する場は4週4日の変形休日制を採用しておく必要があります。

<根拠条文>

・労働基準法 第32条(労働時間)

 > 使用者は、労働者に対し、1週間について40時間を超えて、労働させてはならない。

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000049#169

 

・労働基準法 第36条(時間外及び休日の労働)

 > 使用者は、労働者の過半数で組織する労働組合…との書面による協定を締結し…その協定を行政官庁に届け出た場合においては、その協定で定めるところによって…労働させることができる。

 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000049#184

 

・労働基準法 第35条(休日)

 > 使用者は、労働者に対して、毎週少くとも一回の休日を与えなければならない。

②前項の規定は、四週間を通じ四日以上の休日を与える使用者については適用しない。

 https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049#Mp-Ch_4-At_35

 2. 代休とは

代休は、休日に労働した後に、その代わりとして別の日に休暇を与える制度です。法的に明確な定義はなく、企業が自主的に設ける制度です。代休を与えても、休日労働に対する割増賃金(1.35倍)の支払い義務は免除されません。

 

【代休の具体例】

従業員が日曜日(法定休日)に急な業務で出勤した場合、その翌週の水曜日に代休を与えることができます。しかし、この場合、日曜日は法定休日労働にあたるため、35%の割増賃金を支払う義務が発生します。

代休の法的根拠と運用ルール

  • 法的根拠
    代休については、労働基準法上で明確な規定や定義はありません。企業が就業規則や労働契約で定めて運用します。
  • 割増賃金の支払い
    労働基準法 第37条に基づき、代休を与えても、法定休日労働に対する割増賃金(1.35倍)の支払い義務は残ります。
  • 代休の取得期限の明確化
    代休をいつ取得するかを明確に定めることが望ましいです。取得期限を設定せず、長期間取得しない状態が続くと、労働者の権利保護の観点から問題になる可能性があります。

<根拠条文>

  • 労働基準法 第37条(割増賃金)

  > 使用者が、法定休日に労働者を労働させた場合…通常の賃金の計算額の35%以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。

労働基準法 第37条

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000049#191

 3. 振替休日と代休の違い

振替休日と代休は、どちらも休日労働に対する代償として休暇を与える手段ですが、以下の点で異なります。

項目振替休日代休
取得タイミング休日労働前に設定休日労働後に取得
割増賃金適切に振替を行えば休日割増賃金は不要(ただし、週40時間超過分は時間外労働として割増賃金が必要。)(法定)割増賃金が必要
法定休日労働の扱い法定休日労働とみなされない法定休日労働として扱われる
法的根拠明確な法定規定はないが、労働基準法の趣旨に基づく法的な定義はなく、企業が任意に制度化

 ※法定休日に振替休日を設定したケースと代休を取得したケースでの比較

 4. 実務上の運用ポイント

企業がこれらの制度を適切に運用するためには、以下のポイントに注意する必要があります。

  1. 就業規則等で制度を定める
    振替休日も代休も法定のものではないため、運用するためには就業規則等で定めておく必要があります。
  2. 労使協定の締結
    振替休日設定する場合で、労働時間が法定内に収まる場合は36協定は不要です。しかし時間外労働が発生する場合には、36協定を締結しておく必要があります。
     
    <根拠条文>
    ・労働基準法 第36条(時間外及び休日の労働)
     https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000049#184
     
  3. 時間外労働との調整
    上記のとおり、振替休日を設ける場合でも、同一週内での振替でない場合で週40時間の法定労働時間を超えると、時間外労働が発生します。企業は労働時間を適切に管理することも重要です。
     
  4. 従業員とのコミュニケーション
    また、振替休日や代休は似ていますが割増賃金の取扱い等に違いがあるため、制度を利用する際には、従業員に事前に説明し、理解を得ることが大切です。特に振替休日は、事前に通知することで従業員が予定を立てやすくなり、働く意欲の向上にもつながります。

 5. 企業が取るべきアクション

  1. 振替休日・代休制度の明確化
    就業規則に振替休日や代休の取得条件や手続きを明記し、従業員が制度を理解できるようにしましょう。
     
  2. 労使協定の締結と適切な運用
    休日労働や時間外労働が必要な場合には、必ず36協定を締結し、これに基づいて労働時間を適切に管理します。
     
  3. 従業員への事前通知と合意の取得
    振替休日の場合は、事前に従業員に通知し、代休の場合も、取得時期について十分な合意を得ることが重要です。

 

結論

振替休日と代休は、どちらも企業が従業員に休日労働の代わりに休暇を与えるための重要な制度です。それぞれの違いを理解し、適切に運用することで、従業員の労働条件の改善と企業の法令遵守を両立させることができます。労働基準法に基づいた対応を行い、従業員との信頼関係を築くことが、長期的な企業の成長につながるでしょう。