2024.10.17

2024年10月からの社会保険適用拡大:企業のリスクと成功への対応策

2024年10月から、従業員数51人以上(※1)の企業において週20時間以上働くパートやアルバイト(※2)も社会保険の対象になります。従来は対象外だった労働者が加入することで、年金や医療保険の保障が強化される一方、企業側にはコスト増や労務管理の手間が発生することになります。このコラムでは、企業がどのように対応すべきか、またこの改定をチャンスとして活かすためのポイントを解説します。

 

※1「従業員数」は、厚生年金保険の被保険者数のことを指しますので常用労働者が51人以上でも適用拡大の対象とならない場合もあります。
※2 学生は原則として加入対象となりません。

 

改定の意図と企業への影響

今回の改定は、非正規雇用者にも社会保障の恩恵を広げ、格差を縮小することが狙いです。政府の方針としては、働き方に関わらずすべての労働者が公平に保護されるような制度を目指しています。これにより、企業には社会保険料の負担が増えますが、従業員の福利厚生が充実することで、採用や定着率の向上が期待されます。

主な影響

  • 社会保険料の増加 

企業は新たに加入対象となる従業員の保険料を負担することになります。特に、パートやアルバイトの比率が高い企業では、コストの上昇が経営に与える影響を見極め、適切な対策を取る必要があります。

 

  • 給与計算や労務管理の複雑化 

社会保険適用の条件を満たす従業員を正確に管理するために、労働時間の記録や適用条件の確認作業が増加します。また、人事データベース、給与計算ソフトや労務管理システムのアップデートが必要となるでしょう。たとえば、従業員の所定労働時間が週20時間を超えた場合や週20時間以上の勤務実績が連続する場合にはその都度自動で社会保険加入の注意喚起をしてくれる仕組みを整備することが求められます。

 

  • 従業員とのコミュニケーションの強化 

従業員が社会保険に加入することによって保険料負担が発生しますが、同時に将来的な年金受給や医療費の軽減といったメリットも得られます。従業員に改定の背景と自分たちが受ける恩恵を理解してもらうことが、企業の信頼を深め、従業員の納得感を得るために重要です。

 

企業が取るべき対応策

 1. 労働時間把握・管理の強化

週「所定」労働時間20時間以上が保険適用の大きな基準となります。「所定」労働時間は契約で定められた労働時間であり残業時間は含みませんが、実労働時間が2ケ月連続で週20時間以上となり、それ以降も続く見込みのときは3か月目から加入対象となります。

そこで、パートの雇用契約上の労働時間のみならず、実際の労働時間実績を正確に管理する体制が不可欠です。これには、シフト管理の見直しや労務管理ソフトの導入が有効です。例えば、クラウド型のシステムを活用することで、複数拠点の従業員の勤務状況をリアルタイムで把握し、適用基準に基づいた迅速な対応が可能になります。

 

【ご参考】対象となる従業員を把握可能なExcelイメージが厚労省から紹介されています! https://view.officeapps.live.com/op/view.aspx?src=https%3A%2F%2Fwww.mhlw.go.jp%2Ftekiyoukakudai%2Fkoujirei%2Fmanual%2Fmanual_list.xlsx&wdOrigin=BROWSELINK

 

 2. 社会保険料増加へのコストコントロール

社会保険料の増加は避けられないものの、その負担を軽減するための対策が考えられます。たとえば、業務委託やフリーランスの活用により、雇用形態を多様化することが一つの解決策となります。また、パートタイム労働者の賃金体系を見直し、総人件費を最適化することも検討する価値があります。

 

【ご参考】社会保険料かんたんシミュレーター(厚労省)はこちら! https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/jigyonushi/#%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E4%BF%9D%E9%99%BA%E6%96%99%E3%81%8B%E3%82%93%E3%81%9F%E3%82%93%E3%82%B7%E3%83%9F%E3%83%A5%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%BC

 

 3. 従業員への説明会や相談窓口の設置

従業員にとって社会保険加入は生活に直接影響するため、改定内容や負担とメリットについて理解を深めてもらう必要があります。企業は、社内での説明会を開催したり、外部の専門家を招いたりして、従業員の不安を解消するための対話を積極的に行うべきです。特に、従業員の多くが負担増を心配している場合、具体的なメリットを数字で示すことが効果的です。

 

【ご参考】社会保険加入のメリット(厚労省提供)
 https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/koujirei/jugyouin/

 

  企業にとってのチャンス

優秀な人材確保・定着

今回の社会保険適用拡大は、企業にとってリスクだけでなく、チャンスでもあります。従業員の福利厚生が向上することで、企業の魅力が高まり、優秀な人材の採用や定着率の向上につながる可能性があります。また、非正規雇用者が社会保険に加入することで、働きやすい環境が整い、長期的に安定した労働力を確保できる点も見逃せません。

例えば、従業員の声を積極的に取り入れ、より柔軟な働き方を提供することで、従業員満足度が向上し、結果的に生産性の向上にもつながるでしょう。また、社会保険の適用拡大を契機に、いわゆる130万の壁がなくなり、年末に向けて労働時間調整をしていた従業員についてもシフトが組みやすくなります。労働時間が延びることに伴い従業員教育やキャリアパスの見直しを行い、非正規雇用者に対しても成長機会を提供することで、企業全体の競争力が高まります。

 

結論:企業の持続的な成長のために

2024年の社会保険適用拡大は、企業に新たな負担を強いる一方で、労働環境の改善や従業員との関係強化に繋がる機会でもあります。適切な対応を行うことで、企業は単なる負担増にとどまらず、長期的な視点での成長戦略を描くことが可能です。従業員一人ひとりが安心して働ける環境を整備し、企業全体の生産性を向上させるために、今回の改定を前向きに捉えて、しっかりと準備を進めていきましょう。

 

従業員さまからのFAQ

Q1.社会保険の加入でどんなメリットがありますか?

A1.社会保険に加入することで、健康保険や年金保険の対象となり、病気やケガの際の医療費補助や、将来的な年金受給が可能です。また、原則として労災保険や失業保険も適用されることとなり、安心して働くことができます。

 

Q2. 社会保険料の負担はどれくらい増えますか?

A2. 社会保険料は健康保険と厚生年金について半額を従業員が負担します(※)。具体的な金額は給与によって異なりますが、会社が半分を負担し、残り半分が毎月の給与から天引きされます。給与明細で確認できます。

※自社が健康保険組合で加入の場合、保険料負担は事業主が大きいケースが多いです。

 

Q3. 加入後、手続きや支払いはどのように行われますか?

A3. 加入手続きは会社が行い、従業員側で特別な手続きは不要です。社会保険料は給与から自動的に控除され、会社が代わりに納付します。

 

Q4. 扶養に入っている場合、どうなりますか?

A4. 原則として週20時間以上働き、年収が130万円を超えると扶養から外れるため、前者であればお勤めの会社で社会保険に加入されるか、後者であれば自身で国民年金・国民健康保険に加入する必要があります。扶養から外れることで保険料負担は増えますが、130万の壁がなくなることで働き方が柔軟となり個人としての収入・保障が増える可能性が高くなります。

Q5. 週20時間未満に減らせば加入を回避できますか?

A5. 労働時間が週20時間未満の場合、社会保険の加入対象外になりますが、労働時間の調整は会社と協議する必要があります。また、労働時間が変動する場合、社会保険の加入条件が再び適用されることがあります。また、週20時間未満でも年収130万を超える場合は、扶養から外れる結果、自身で国民年金・国民健康保険に加入する必要があります。

  

事業主さまからのFAQ

Q1.「被保険者の総数が常時 50 人を超える」(特定適用事業所)とは、どのような状態を指すの か。どの時点で常時 50 人を超えると判断することになるのか。

A1.「被保険者の総数が常時 50 人を超える」とは、 ① 法人事業所の場合は、同一の法人番号を有する全ての適用事業所に 使用される厚生年金保険の被保険者の総数が 12 か月のうち、6か月以上 50人を超えることが見込まれる場合を指します。 ② 個人事業所の場合は、適用事業所ごとに使用される厚生年金保険の 被保険者の総数が 12 か月のうち、6か月以上 50 人を超えることが見込まれる場合を指します。

 

Q2. 施行日から特定適用事業所に該当する適用事業所は、どのような手続が 必要になってくるか。

A2. 令和5年10月から令和6年8月までの各月のうち、使用される厚生年金保 険の被保険者の総数が6か月以上50人を超えたことが確認できる場合は、機 構において対象の適用事業所を特定適用事業所に該当したものとして扱い、 対象の適用事業所に対して「特定適用事業所該当通知書」を送付するため、 特定適用事業所該当届の届出は不要です(法人事業所の場合は、同一の法人 番号を有する全ての適用事業所に対して通知書を送付します。)。 一方、被保険者資格取得届については、適用拡大の実施に伴い、新たに被 保険者資格を取得する短時間労働者がいる場合、各適用事業所がその者に 係る当該届を令和6年10月7日までに事務センター等へ届け出る必要があ ります(健康保険組合が管掌する健康保険の被保険者資格取得届については、健康保険組合へ届け出ることになります。)

 

Q3. 施行日以降、特定適用事業所に該当する可能性のある適用事業所に対し て、あらかじめ機構から何らかのお知らせは送付されてくるか。

A3. 施行日以降は、機構において、使用される厚生年金保険の被保険者の総数 が直近11か月のうち、5か月50人を超えたことが確認できた場合(5か月目 の翌月も被保険者数が50人を超えると特定適用事業所に該当する場合)は、 対象の適用事業所に対して、「特定適用事業所に関する重要なお知らせ」を 12 送付します(法人事業所の場合は、同一の法人番号を有する全ての適用事業 所に対してお知らせを送付します。)。 ※ 機構から送付するお知らせについては別紙もご参照ください。

 

Q4. 使用される被保険者の総数が常時 50 人を超えなくなった場合、どのよう に取り扱われるか。

A4. 使用される厚生年金保険の被保険者の総数が常時50人を超えなくなった 場合であっても、引き続き特定適用事業所であるものとして取り扱われます。 ただし、使用される被保険者の4分の3以上の同意を得たことを証する 書類を添えて、事務センター等へ特定適用事業所不該当届を届け出た場合 は、対象の適用事業所は特定適用事業所に該当しなくなったものとして扱 われることとなります(法人事業所の場合は、特定適用事業所該当届の届出 方法と同様に、同一の法人番号を有する全ての適用事業所を代表する本店 又は主たる事業所が取りまとめ、事務センター等へ特定適用事業所不該当 届を届け出ることになります。また、健康保険組合が管掌する健康保険の特 定適用事業所不該当届については、健康保険組合へ届け出ることになります。)。 このとき、短時間労働者に係る被保険者がいる場合は、併せて資格喪失届の提出が必要となります(健康保険組合が管掌する健康保険の被保険者資 格喪失届については、健康保険組合へ届け出ることになります。)。 なお、届出による特定適用事業所の不該当年月日及び短時間労働者に係る被保険者の資格喪失年月日は受理日の翌日となります。

 

●ご参考

 社会保険適用拡大 特設サイト(厚労省)

https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/index.html

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