今回は、デリケートな話題ではありますが、「不貞の慰謝料」というテーマについて、主に減額要素の観点から詳しく解説していきます。
目次
1 「不貞」と「不倫」「浮気」の違いについて
まず初めに、「不貞」に似た趣旨で「不倫」、「浮気」という言葉が用いられることがあります。
この違いは、「不貞」が、法律により離婚事由(民法770条1項1号)とされているのに対して、「不倫」や「浮気」は、法律用語ではなく、あくまで個人の主観による明確な定義がないものとなります。そのため、不倫や浮気の線引きは、個人の価値観やそれぞれの関係性により左右されます。
一方、「不貞」は、配偶者以外の異性と性的関係を持つことをいいます。
(1)慰謝料の基本的な考え方
不貞における慰謝料は、その行為によって配偶者が受けた精神的苦痛を金銭的に補償するものです。しかし、金額は一律ではなく、様々な要因によって変動します。
(2)慰謝料の法的根拠
民法第709条(不法行為の一般原則)と第710条(財産以外の損害の賠償)が慰謝料請求の根拠となります。不貞行為は、婚姻関係にある夫婦が相互に負う貞操義務に反し「婚姻関係の平穏」を害する不法行為で、その慰謝料請求権は、妻又は夫としての一種の人格的権利とも捉えられています。
(3)一般的な慰謝料の相場
慰謝料の金額に明確な基準はありませんが、一般的には100万円から300万円程度となることが多いです。ただし、ごく稀に500万円を超える高額な慰謝料が認められることもあります。
2. 慰謝料が減額される可能性がある要素
(1)婚姻関係の破綻
不貞行為の以前に既に実質的な婚姻関係が破綻に近い状況にあった場合、慰謝料が減額される可能性があります。
【事例】
Aさん(40代・男性)は、妻と別の女性と交際を始めたときには、既に別居期間が3年以上ありました。裁判所は、交際に至った時点で既に婚姻関係が破綻に近い状況にあったとし、慰謝料を大幅に減額しました。
(2)不貞行為の期間と程度
交際期間が短い場合、減額の理由となり得ます。
【事例】
Bさん(30代・女性)は、職場の同僚と短期間に2度、性的な関係をもちましたが、それ以降、交際することはありませんでした。このことが証明できたため、慰謝料は通常の数十万円程度に抑えられました。
(3)慰謝料請求者の落ち度
慰謝料の請求者側の婚姻期間中の問題行動(請求者側もかつて不貞行為をしていた、DVなど)が証明できれば、減額の根拠となる可能性があります。
(4)加害者の経済状況
支払い能力が著しく低い場合、現実的な支払い計画のために減額が検討されることがあります。
【事例】
Dさん(40代・女性)は、非正規雇用で収入が低く、子供の養育費も支払っていました。この経済状況を考慮し、裁判所の和解案では、慰謝料を分割払いにするとともに、一定額までを期限に従って分割払いをした場合には、一部を免除する内容を提示されました。
(5)示談交渉や調停での合意
誠実な態度で話し合いに臨み、相手方の感情に配慮しながら交渉することで、減額に至るケースもあります。
3. 具体的な減額の方法
a) 証拠の収集と提示
婚姻関係の破綻を示す証拠(別居の事実を示す書類など)や、不貞行為の程度が軽微であったことを示す証拠を集めることが重要です。
- 別居の証明:賃貸契約書、公共料金の支払い記録
- 関係の軽微さの証明:メールやSNSのやりとり、デートの頻度を示す記録
b) 専門家への相談
弁護士に相談し、個別の状況に応じた適切なアドバイスを受けることをお勧めします。
弁護士相談のメリット
- 法的な立場の正確な把握
- 効果的な証拠収集の方法の指導
- 交渉戦略の立案
- 書類作成のサポート
c) 誠実な対応と謝罪
相手方の感情を理解し、誠実に謝罪する姿勢を示すことが、交渉をスムーズにする可能性があります。
効果的な謝罪の要素
- 行為の明確な認識と表明
- 相手の気持ちへの理解と共感
- 具体的な再発防止策の提示
- 補償の意思表示
d) 分割払いの提案
一括での支払いが困難な場合、分割払いを提案することで、総額の減額につながることもあります。
分割払い提案の際の注意点
- 具体的で実現可能な支払い計画の提示
- 支払い保証の方法(公正証書の作成など)の提案
- 分割払いによる金利分の考慮
4.注意すべき点
- 慰謝料の減額を図ることは法的には可能ですが、それによって相手方の感情を更に害する可能性があることを認識しておく必要があります。
- 交渉が長引くことで、弁護士費用などの付随的な費用が増加する可能性もあります。
- 法的な観点からの減額と、関係者に対する道徳的な責任は別個であることを理解しておくことが重要です。
慰謝料請求の時効
不貞行為による慰謝料請求権の消滅時効は、民法第724条により以下のように定められています。
1. 被害者が損害および加害者を知った時から3年
2. 不法行為の時から20年
5.不貞による離婚慰謝料に関する最高裁判例(平成31年2月19日判決)
不貞相手に対する慰謝料請求については、以下の2つがあると考えられています。
①不貞行為そのものによる精神的苦痛に対する慰謝料
②不貞行為を原因とする離婚という結果から生ずる精神的苦痛に対する慰謝料
今回のケースでは、②の離婚慰謝料の請求が不貞相手に認められるのは、「当該第三者が、単に夫婦の一方との間で不貞行為に及ぶにとどまらず、当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情があるときに限られる」とされました。
つまり、不貞相手である第三者に対する離婚に伴い発生する慰謝料請求は原則として認められず、特段の事情がある場合に限り認められるという、実務上では重要な判断基準が最高裁により示されたと考えております。
おわりに
不貞は許される行為ではありませんが、法的な問題として対処する必要がある場合もあります。慰謝料の減額を考える際は、法的な側面だけでなく、関係者の置かれた立場や感情にも十分に考慮し、誠実な態度で問題解決に当たることが重要です。