この度、私が弁護人を務めたトルコ人の被告人に対するひき逃げ事件において、名古屋地方裁判所が、別人が運転していた可能性があるとの理由で無罪判決を言い渡しました。「疑わしきは被告人の利益に」という刑事訴訟の大原則に則って無罪判決を出された裁判所に、あらためて敬意を表します。
本件において、被告人は、当初別の日に起きた無免許運転で逮捕され、勾留された後、証拠の乏しいひき逃げ事件についても起訴されました。ひき逃げについては、被告人は、当初から一貫してその日は運転していなかったと述べておりました。
被告人は、無免許運転については当初から素直に認めており、逮捕勾留の必要の乏しい事案でした。しかし、捜査機関は、ひき逃げ事件について明白な証拠もないまま被告人を勾留し続け起訴をしたことにより、被告人は8か月もの間、身柄を拘束されました。
さらに、被告人は勾留中に在留期限が到来し、在留期間の更新が認められなかったため、オーバーステイの状態になり、現在は入国管理局に身柄が拘束されています。このまま、退去強制命令を受ける可能性が高いですが、そうなれば5年間日本に入国できなくなるという不利益を受けます。
新聞の報道によると、名古屋地検の北村篤次席検事は、「判決内容を詳細に検討し適切に対応したい」とコメントしているということです。
控訴されると、被告人は入国管理局に身柄がある状態で審理を受けなければならなくなる可能性が高く、結果として被告人はさらに長期間の身柄拘束を受けることになります。
証拠が乏しいにもかかわらず、ひき逃げの嫌疑をかけて長期間に渡って身柄拘束を行った捜査機関の姿勢に遺憾の意を表するとともに、被告人にさらなる不利益を与えることのないよう切望します。
(平成24年2月29日 弁護士法人クローバー 弁護士 村松由紀子)
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