相続手続きでは、全ての相続人が法的な権利や義務を理解し、意思表示ができることが原則となっています。しかし、相続人の中にはご高齢となり、意思能力がない方がいることもあります。そのような場合には特別な配慮と手続きが必要です。
意思能力とは、自らがした行為の結果を判断することができる能力を指し、認知症や精神障害、未成年などでこの能力が欠けている場合があります。
1. 意思能力がない相続人がいる場合の対応の重要性
相続においては、亡くなった方が遺言を作成していなかった場合、すべての相続人による遺産分割協議が必要になります。遺産分割協議では、各相続人が協議内容を理解し、納得して同意する必要があるため、意思能力がない相続人がいる場合はそのまま進めることができません。
これは、意思能力がない相続人が自分の利益を損なうことがないよう、法的に保護する必要があるからです。
したがって、意思能力がない相続人が参加した遺産分割協議は無効となり、相続手続きを進められなくなるリスクが生じます。
2. 法定代理人の選任
意思能力がない相続人がいる場合、法定代理人が本人に代わって遺産分割協議に参加する必要があります。意思能力のない成人が相続人の場合、成年後見制度を利用し、後見人が法定代理人として遺産分割協議に参加することが一般的です。
3. 成年後見制度
成年後見制度は、意思能力がない成人を法的にサポートする制度で、以下の種類があります。
- 法定後見:後見(意思能力がほぼない場合)、保佐(意思能力が著しく不十分な場合)、補助(意思能力が不十分な場合)が用意されており、家庭裁判所への申立てにより審判がなされ、相続人の状態に応じた支援が提供されます。
- 任意後見:相続人が意思能力を失う前に、後見人を事前に決める契約を結ぶもので、本人が信頼する人を後見人に指定できる点が特徴です。
後見人には、相続手続きにおいて相続人の利益を守る責務が課され、遺産分割協議でもその役割を果たします。後見人は家庭裁判所によって監督されるため、相続人の権利が不当に扱われることは防止されます。
4. 特別代理人の利用
意思能力がない相続人がいる場合、後見制度を利用することが一般的ですが、遺産分割調停を申し立て、意思能力がない相続人の為に特別代理人を選任してもらうという方法も考えられます。
成年後見が開始された場合、遺産分割協議が終了した後も、後見人が意思能力のない相続人の財産を管理し続けることになりますので、その為の費用が発生することになります。
他方、特別代理人は、遺産分割調停手続きの為だけに選任された代理人ですので、遺産分割調停が終了すれば任務が終了しますので費用を抑えることができます。
したがって、遺産分割協議についてのみ代理人を選任したい場合には、特別代理人を利用する方が適切であると言えます。
もっとも、意思能力のない相続人の為に特別代理人が選任できるかについては明文の規定がなく、裁判所の運用も定まっていないため、必ずしも特別代理人が選任してもらえるわけではなく、後見開始の審判を申し立てるように促されることも少なくありません。
5. まとめ
意思能力のない相続人がいる相続では、遺産分割協議の効力に疑義が生じないよう、通常の手続きよりも慎重さが求められます。
また、認知症の程度によっては、ご本人を相続人として遺産分割協議を進めて良いか、又は法定代理人が必要になるかの判断が難しい場合もあります。そして、法定代理人が必要な場合には、後見人の選任の申立てや遺産分割調停の申立て等、家庭裁判所での手続きを要することになることが見込まれますので、通常の遺産分割協議よりも手続きが複雑になり、時間も要すると考えられます。
認知症等で意思能力に疑問がある相続人がいらっしゃる場合の相続手続きについては、お早めに弁護士法人クローバーまでお問い合わせください。