2025.09.27

「危急時遺言」― もしもの時に遺志を残す方法 ―

 

人生には、予期せぬ事態が突然訪れることがあります。事故や急病などで命の危険が迫ったとき、「自分の遺志を残したい」と思っても、通常の遺言書を作成する時間がないかもしれません。そんなときに認められるのが「危急時遺言」です。

今回は、口頭によっても、遺志をしっかりと残す方法を、名古屋で多くの相続案件を取り扱う弁護士が解説します。

1.「危急時遺言」とは

危急時遺言とは、病気や事故などで急に命の危険が迫った人が、通常の方式による遺言を作成できない状況で、特別な方法で意思を残すことができる制度です。

民法第976条に定められており、本人の意思を尊重するための救済措置とも言えます。

この遺言は、口頭で行うことができ、証人3人以上の立ち会いがあれば成立します。ただし、後日、家庭裁判所での確認手続きが必要です。

2.認められる要件・手続

危急時遺言が有効となるためには、以下の要件を満たす必要があります。

■危急状態にあること

⇒ 遺言者が死亡の危険に直面しており、通常の遺言方式を取る余裕がないこと。

■証人3人以上の立ち会い

⇒ 推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族は、証人となることはできません。利害関係のない成人で、遺言内容を理解し、後日証言できる人が必要となります(民法974条)。

■口頭による遺言の伝達

⇒ 遺言者が口頭で意思を伝え、証人がそれを正確に聴取すること。

■20日以内の家庭裁判所へ確認(検認)申立て

⇒ 危急時遺言を作成した日から20日以内に、証人等が家庭裁判所に以下のような遺言の確認(検認)を申し立てる必要があります。この手続きを怠ると、遺言は無効となってしまいますので注意が必要です。

≪確認手続きの流れ≫

  1. 申立て期限
    危急時遺言を作成した日から20日以内に家庭裁判所へ「遺言確認の審判」を申し立て
  2. 申立先
    ・遺言者が存命中遺言者の住所地を管轄する家庭裁判所
    ・遺言者が死亡後最後の住所地を管轄する家庭裁判所
  3. 必要書類
    ・申立書
    ・危急時遺言の写し
    ・証人3名の戸籍謄本
    ・遺言者の戸籍謄本や住民票
    ・医師の診断書(生存中の場合)など
  4. 裁判所での確認
    ・家裁調査官が証人に面談調査を行い、作成状況や遺言者の意思能力を確認。
    ・調査報告書を作成し、裁判官が審判で「遺言者の真意に基づくか」を判断。認められれば正式な遺言として効力をもつことになります。

            3.危急時遺言の効力が争われた裁判例(東京高裁令和2年6月26日決定)

            【事例の概要】

            • 遺言者は高齢で重篤な感染症により入院中。命の危険が迫る状況にあった。
            • 遺言者の長男が弁護士に相談し、公正証書遺言の準備を進めていたが、体調悪化により危急時遺言の手続きに切り替え。
            • 令和元年12月、病院にて行政書士3名が証人として立ち会い、遺言者が「長男にすべて残す」と口頭で意思表示。
            • その後、家庭裁判所調査官が遺言者に面談したが、遺言内容に関する回答は曖昧で、主治医は認知機能障害の診断を示していた。
            • 家庭裁判所は「真意に基づく遺言とは認められない」として申立てを却下。これに対し、長男らが即時抗告。

            【争点】

            • 危急時遺言が「遺言者の真意に基づくもの」と言えるかどうか。
            • 認知機能障害の診断がある中で遺言者が遺言内容を理解し、意思表示できたか。
            • 証人の供述の信用性と、遺言内容の合理性。

            【高裁の判断】

            • 家庭裁判所が得るべき「真意」の心証は、「確信」まで至らなくてもよく、「一応真意に適う」と判断される程度で足りると一般論を提示。
            • 証人(行政書士3名)の供述は一致しており、弁護士の依頼で立ち会ったことからも信用性が高い。
            • 遺言内容(長男に全財産を相続させる)は、遺言者が長男宅に引き取られた経緯などから合理性がある。
            • 調査官との面談時の曖昧な応答は、日によって認知状態が変動する可能性があるとし、決定的な否定材料とは言えない。

            【結論】

            「本件遺言は一応遺言者の真意に適う」として、原審(家庭裁判所)の却下を取り消し、危急時遺言の有効性を認めた。

            4.弁護士に相談するメリット

            危急時遺言は、とにかく時間との戦いです。弁護士が関与することで、以下のような支援が可能になります。

            • 的確な状況判断と法的アドバイス

            ⇒ 「危急状態」にあたるか否か、遺言として成立するかを的確に判断。

            近時では、遺言のビデオ録画など、遺言者の意思能力や自由決定を補強する証拠資料として様々な工夫がありますので、このような支援も可能です。

            • 証人の確保と適格性の確認

            ⇒ 利害関係のない証人を迅速に選定し、後日の証言に備える。

            • 家庭裁判所への申立て支援

            ⇒ 遺言の確認手続きを代理人として行い、遺言の効力を確保。

            • 利害関係者との調整

            ⇒ 相続人間のトラブルを未然に防ぎ、心理的安全性を守る。

            特に医療・介護現場では、現場職員が証人となるケースも多く、相続問題に詳しい弁護士が関与することで証人の心理的負担を軽減し、手続きの正当性を担保できます。

              5.最後に

              危急時遺言は、命の瀬戸際であっても、「自分の意思を残したい」という思いに応える制度です。ただし、証人の確保や確認手続きなど、周囲の協力が不可欠です。普段から家族と話し合い、可能であれば元気なうちに公正証書遺言などを準備しておくことが、より確実な意思表示につながります。

              弁護士法人クローバーは、名古屋主事務所のほか、江南、東京にも事務所があるので、緊急時に、広範囲での対応が可能です。

              もちろん、豊富な相続事例のなかで、危急時遺言の取り扱い実績もございます。

              もしもの際、きちんと“遺志”を残すため、遺言についは是非、弁護士法人クローバーにご相談下さい。

               

              また、その他の遺言の事例や法改正情報は順次コラムでアップいたします。

              ※遺言関連 参照情報※

              法務省 遺言制度の見直しにおける論点の検討(1):001418943.pdf

              法務省 自筆証書遺言書保管制度 :自筆証書遺言書保管制度

              政府広報オンライン「知っておきたい遺言書のこと。無効にならないための書き方、残し方」:知っておきたい遺言書のこと。無効にならないための書き方、残し方 | 政府広報オンライン