2024.01.25

誰が支払う?葬儀代を巡る負担の行方

相続人には時間が無い!

身近な人が亡くなったとき、残されたご家族としては、思い出を胸に、ゆっくりと故人を偲びたいものです。
しかし、実際には、時間に追われ、翌日には、通夜、葬儀をとりおこない、葬儀終了後、一週間から10日程度で葬儀費用を支払わなければならないというのが実情です
相続人の間で、葬儀費用の分担について話合いをする時間的余裕がない場合も多く、後になって、相続や遺産分割協議の際にトラブルとなるケースも少なくありません。
そこで、本稿では、葬儀費用を相続財産から出すことができるのか、誰が葬儀費用について負担することとなるのか、ご説明していきたいと思います。

無視できない?葬儀費用の相場について

⑴ 葬儀費用の種類
葬儀の際にかかる費用は、葬儀会社に支払う葬儀一式費用や寺院等に納めるお布施や礼金など、費用の種類も支払先も様々であり、主に必要となってくる費用は図の通り、①葬儀費用一式、②飲食費用、③寺院等への謝礼に分けられます。

 

⑵ 実際の葬儀費用の額
葬儀の形式によって金額に差は出ますが、経済産業省の「特定サービス産業動態統計調査」によると、2022年における、葬儀1件当りの葬儀業の売上高は平均112万8,613円となっており、葬儀会社とは別に、御布施などを寺院に納めると考えると、葬儀にかかる一般的な費用は、およそ150万円程度はかかるとみられます。
故人である被相続人のためとはいえ、簡単に負担できる額ではありませんね。
 

※出典:経済産業省「特定サービス産業動態統計調査(2023年度)」
(https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/tokusabido/index.html)

葬儀費用は相続財産から引き出せるのか

⑴ 葬儀費用は相続財産から当然に捻出することはできない
「故人の為にとり行うものだし、葬儀費用も、相続財産から出るのでは?」と思われる方も少なくないと思われます。
しかし、相続財産とは、被相続人が亡くなった際に、保有していた一切の権利義務のことをいい、葬儀費用は被相続人の死後に生じる金銭債務ですから、相続財産には含まれません。
したがって、被相続人の葬儀費用は、相続財産から当然に支払われるものではないのです。

 

⑵ 基本的には喪主が負担
では、葬儀費用を負担するのは誰なのかという話になりますが、基本的には葬儀をとり行う喪主が負担すると考えられています。
過去の裁判例(名古屋高判平成24年3月29日)でも「追悼儀式を行うか否か、同義式を行うにしても、同義式の規模をどの程度にし、どれだけ費用をかけるかについては、もっぱら同儀式の主催者がその責任において決定し実施するものであるから」喪主が負担すべきとされた事案があります。

 

⑶ 相続人同士で話し合って、相続財産から支払うことはできる
葬儀費用をどのような形で支払うべきといった法律上の定めはありません。
相続人間で話し合い、各人の負担割合を定めて葬儀費用を分担することもできますし、遺産分割協議の際に、葬儀費用を相続財産から支出する旨、相続人同士で合意することも可能です。
葬儀費用の分担については、必ず、相続人同士でお話しされることをおすすめいたします。
「葬儀まで時間はないし、後で、他の相続人に支払ってもらおう」とか「相続財産から出せばいい」と、誰にも相談せずに葬儀費用を立て替えると、後から、他の相続人が立て替えた葬儀費用の支払いを渋ったり、遺産分割協議の際に、他の相続人から異議が出てトラブルになりかねませんので注意して下さい。

 

⑷ 遺言で葬儀費用の負担を決めることはできないか
なお、葬儀費用について、遺言に「葬儀費用は、(別紙)財産目録記載の▲▲銀行の口座から支出する」とする定めなどがあった場合はどうでしょうか。
先ほどお伝えした通り、基本的に、葬儀費用の債務は相続財産に含まれず、遺言に記載されていることにより法的効力が認められる事項(遺言事項)ではありません。
ですので、遺言に定めがあるとしても法的効力はなく、葬儀費用の準備をしておきたいという方は、元気なうちに、あらかじめ葬儀会社との間で契約を結んでおいたり、葬儀費用を信託しておいたりするなど、対策を講じておくのも選択肢の一つです。
この点、生前の契約やサービスを取り扱う葬儀会社もありますので、一度問い合わせてみるとよいでしょう。

そのほか葬儀費用で気をつけること

⑴ 香典の取扱いにも注意
葬儀の際に気をつけなければならないのは出費だけではありません。
あまり多いケースではありませんが、葬儀費用を払った後、香典に残りがあったり、葬儀費用を負担していない者が香典を受け取ったりした場合には、トラブルにつながることもありますので注意してください。

 

⑵ 緊急時は預貯金の仮払い制度を活用しましょう
銀行は、被相続人の死亡を確認すると、不正出金を防ぐため、被相続人名義の口座を凍結し、遺産分割が成立するまで出金や振込などをできなくします。 
葬儀費用などで緊急のお金が必要な場合でも、相続人が預金を引き出せず困るケースもありましたが、2019年7月より、一定限度であれば、遺産分割が成立する前でも、被相続人名義の口座から、預金が引き出せるようになりました。
これを「預貯金の仮払い制度」といい、相続人だけでは葬儀費用を賄えないときには活用しましょう。

 

⑶ 相続財産から支払った葬儀費用は控除の対象になります。
相続税を申告する際、以下の葬儀費用は、相続財産から支払っていれば、課税対象となる相続財産の額から控除することができます。

 

場合によっては節税効果を期待できるケースもあり、税理士と相談しながら検討するという選択肢もあるでしょう。

最後に

喪主として葬儀をとり行うのは多大な労力を要し、経済的負担以上に身体的・精神的な負担も大きいです。
そんなときに葬儀費用の負担について不公平な形で葬儀を進めれば、その後の遺産分割にも影響が出てくることは想像に難くありません。


たとえ、時間が無くとも、葬儀の費用については相続人同士で必ず、話し合われるようお気を付け下さい。
   
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