相続放棄をすべき場合とは?
相続放棄とは、被相続人が生前有していた一切の権利や義務を受け継がないことです。相続放棄をした者は、初めから相続人とならなかったものとみなされ、借金などといった債務を承継しない一方で、現金や不動産といった財産も被相続人から引き継ぐことはなくなります。
相続放棄のメリットとしては、債務などを相続することを防げる、遺産分割協議などで相続人同士の争いを回避出来るといったことが挙げられます。
もっとも、相続放棄は一度行うと撤回することができないため、本当に放棄すべきか慎重に考えなければなりません。以下のような場合、相続放棄をするべきか検討していくこととなります。
被相続人に多額の債務があるとき
- 被相続人に多額の借金・債務があった
- 被相続人が生前、誰かの連帯保証人になっていた
といった場合には、被相続人の現金・預貯金、不動産、有価証券などの財産よりも、債務が高額で相続財産全体でみるとマイナスとなっていることもあります。
思いがけず、債権者から相続人が弁済を求められるといったこともあるでしょう。
そのため、財産より、債務が明らかに多いような場合には、相続を放棄することも検討する必要があります。
遺産相続によるトラブルを避けたいとき
- 遺産が少なく、各相続人で分け合うことが難しい
- 被相続人の事業など、特定の相続人に遺産を与えたい
といった場合、遺産を受け取ることとなれば、相続人同士での話し合いや書類のやり取りなどが複雑になり手間もかかります。故人やほかの相続人との関係によっては争いを避けるために相続放棄を検討することも選択肢の一つです。
相続放棄までの手続きと流れ
以上の通り、様々な理由で利用される相続放棄ですが、具体的にどのような手続きが必要になるのでしょうか。相続放棄には、申述期間として3か月という期間制限があるため、放棄までの流れを正しく理解しておくことが重要です。
自分で相続放棄する場合、大まかな手続きと流れは以下の通りとなります。
手続費用を用意する
相続放棄の手続をする場合にかかる費用は、大きく分けて
- 収入印紙代800円
- 郵便切手代
- 戸籍謄本などを取得するための代金
となります。
自分で相続放棄を行う場合、そこまで費用がかかることはありません。
ただし、ご自身で相続放棄の手続きを進めるには、仕事を休まなければならなくなったり、書類収集のために交通費がかかったりと、そのほかの負担がかかることも少なくありません。
その場合、専門家に依頼するというのも一つの選択肢です。期間内に手続を終えられるか不安がある方や、確実に手続きを行いたいという方は、当事務所までお気軽にご相談ください。
必要書類を準備する
被相続人と相続を放棄する人の続柄によって必要な書類が変わってきます。必要書類の中には、戸籍謄本など、入手に時間のかかるものもあるので、相続を放棄することになったら、早めに集めるようにしましょう。
「相続放棄申述書」はどのような場合でも必要となりますが、裁判所の窓口で受け取るか、裁判所のホームページからダウンロードすることもできます。
なお、相続放棄をする人が未成年の場合、親権者や後見人といった法定代理人が手続きをする必要があります。
相続放棄申述書に必要事項を記入する
申請書に本籍・住所・氏名・相続放棄の理由などの必要事項を記入します。
書き方に誤りがあったり不備があったりなどしますと、家庭裁判所で受理されないといったこともあるので注意してください。
家庭裁判所に書類を提出
必要事項を記入しましたら、相続放棄申述書に戸籍謄本等の必要書類を添付して、家庭裁判所に提出します。
申込書類を提出するのは、亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所ですので、間違えないように気をつけてください。
家庭裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が届く
場合によっては、照会書などで、裁判所から質問が来ることもありますが、通常1週間~10日ほどで「相続放棄申述受理通知書」が届き、家庭裁判所で相続放棄が認められた旨の通知が届きます。
ここまで来たら、放棄の手続きも完了し一安心といってもよいでしょう。
なお、債権者などに相続放棄を証明するには、「相続放棄申述受理証明書」が要りますが、家庭裁判所に申請すれば交付してもらうことができます。
相続放棄の手続きが可能な期間は3カ月
相続放棄をすることができるのは、相続の開始を知ってから3カ月です。
時間的な制約のある中で、被相続人の財産調査が難航したり、手続きに不備があったり、戸籍謄本を集めるのに手間がかかったりすると、余裕を持って手続きの準備を始めたのに、3カ月以内に相続放棄の手続きができないという事態も考えられます。
以下のような場合には、弁護士などの専門家に依頼されることをお勧めいたします。
3カ月以上かかりそうな場合
被相続人の財産調査が難航していて放棄すべきか判断が出来ない場合や、被相続人の戸籍が複雑で集めるのに時間がかかるといったやむをえない事情から、手続に3カ月以上かかるという場合は、「相続放棄のための申述期間伸長の申請」を家庭裁判所に行うことで手続期間を延長することができます。
3カ月を過ぎてしまった場合
3カ月の申述期間を経過してしまった場合、原則として相続放棄はできません。しかし、事情によっては放棄が認められる可能性もあります。
ただ、申述期間後の相続放棄は、非常に難易度の高い手続きとなりますので、基本的に弁護士に相談することをお勧めいたします。
相続放棄の手続きの際の注意点
相続放棄を行う際に注意すべきポイントを紹介いたします。以下の点をご確認の上、ご参考いただけますと幸いです。
生前に相続放棄はできない
被相続人の生前に、前もって相続放棄することはできません。たとえ、念書などで、被相続人が生きているうちに、相続を放棄するといった内容の書面を作成しても、法的に効力はありません。
遺産を処分すると相続放棄できない
相続人の財産を、ごく一部でも、処分したりすると、単純承認したことになってしまい、相続放棄が出来なくなってしまうのでご注意ください。
相続放棄すると撤回はできない
一度、家庭裁判所によって相続放棄が認められると、基本的に撤回することはできません。あとで調べたら財産のほうが多かった、気が変わったなどの理由では撤回できませんので注意してください。
相続放棄しても受け取れるものがある
相続放棄をすれば遺産は一切受け取れません。しかし、相続を放棄していても「受取人」が相続放棄をした遺族となっている死亡保険金や死亡退職金など、受け取れる可能性のあるお金もあります。
この場合、相続税との関係で「みなし相続財産」として扱われるものもありますのでお気を付け下さい。税理士さんに相談してみてもよいでしょう。
相続人全員が相続放棄した場合、財産は国のものになる
特別縁故者への分与や借金などの精算をしても残った相続人のいない財産は最終的に国に帰属することになります。
おわりに
故人から引き継ぐ財産は、必ずしもプラスのものばかりではありません。莫大な借金があって受け継ぎたくないといったこともあるでしょう。そんなときに有効な手段として相続放棄をして一切財産を相続しないというのも一つの選択肢となります。
ただ、相続放棄の申述期間は3か月ほどですので、あまり時間的な余裕はなく、場合によってはご自身で、手続きを進めるのが難しくなるケースもあります。
相続放棄の手続はご自身でも行える場合もございますが、時間がない方や確実に手続を進めたいという方はお気軽に、当事務所までご相談ください。